全国展開や海外展開をしている会社のサラリーマンには、急な転勤は考えておかなければいけないこと。2週間後にお引っ越しなんて事例はざらだと思います。そんな環境に置かれていたら、「買った後、すぐに転勤が決まったらどうしよう」なんて家を買うことに躊躇してしまいます。
「自宅を買ったら転勤が決まる」なんて都市伝説的な企業もあるくらいです。
事実、私の友人も、売買契約締結後に海外転勤が決まり、引渡しを受ける前に引っ越していきました。
では、転勤の多い企業に勤めているサラリーマンは、自宅を買うことにどう向き合っていけばよいのでしょう。
家を買ってから転勤が決まった場合、大抵の方がどういう方法で家を維持しているのか、また、どういう手続きが必要なのかを予め理解しておけば、転勤を恐れることなく自宅購入を検討できるのではないでしょうか。
転勤が決まったら家について考えること
家を購入した後に転勤が決まったら、家についての選択肢は大抵の場合、以下の4つ。
- 売却する
- 家族はそのまま居住し、単身赴任
- 家族全員で引っ越し、戻ってくるまで空き家にしておく
- 家族全員で引っ越し、その期間は他人に貸す
4つの中でも「空き家にしておく」と「その期間中は他人に貸す」は、自己の居住とはならず、税制等の扱いが異なったり、不動産管理会社との協力が必要であったりと、特別な手続きや知識が必要ですので、今回はこの2点について考えてみます。
空き家にしておく場合
いつ転勤から戻っても、自分で居住できるようにと、転勤期間中は空き家にしておく場合、考えなければいけないのが、その期間中の維持管理です。
人が住まない空き家は設備や建物の状態を維持するのが難しく劣化が早い
誰も居住していない建物は、思った以上に劣化が早く進みます。
通風や換気をしないと、空気がこもり湿気やカビの原因になりますし、水を流さないと詰まりの原因や封水が切れて臭いや虫が室内に入り込む原因になります。エアコンなどの家電も使われないと故障も早まりますので、定期的な通風・換気や設備の稼働状況確認を行うことは、維持管理上とても重要です。
また、外から見て空き家だと分からないように、建物周りの清掃や庭の手入れを行い防犯対策に努めたり、火災や漏水など不測の事態が起きた時の対処方法も考えておくことも、建物の劣化を防ぐとともに、近隣住民に迷惑が掛からないようにする意味でも欠かせません。
転勤からいつでも戻ってこられるようにと考えて空き家にしていたのに、手入れがなされておらず、住める状態にするには大きなリフォーム工事が必要になってしまうこともあります。
空き家管理サービス利用して空き家をきちんと維持しよう
そういったことが無いように、空き家期間中に、定期的に巡回し、通風や換気をはじめ室内の点検や設備の状況確認や、必要に応じて定期清掃や庭の手入れを行う空き家管理サービスもありますので、いつもで戻ってこられるように転勤期間中に空き家にしておこうと考えているならば、空き家管理サービスを利用することをお勧めします。
空き家管理サービスは、作業内容にもよりますが、月額3,000円~8,000円程です。
賃貸に出す場合
他人に自宅を貸すということは抵抗があるかもしれませんが、空き家にしておくよりは建物の状態は維持されますし、家賃収入によって、維持管理に必要な固定費を賄えます。
ですが、それによって新たに発生する手続きやリスクもありますので、事前にしっかり押さえておきましょう。
定期借家契約で、転勤から戻ってきても自分で住めるようにしておく
他人に自宅を貸すと借地借家法が適用されますので、正当事由がないと、借主に退去を求めることはできません。
正当事由とは、
- 貸主が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過(家賃滞納や信頼関係の破壊など)
- 建物の利用状況及び建物の現況(老朽化など)
- 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出(立ち退き料の支払いなど)
を考慮して判断されますが、滞納が何ヶ月も続いているようなよほどの賃借人が不利な状況がないと、退去してもらうことは困難なのが実情です。
転勤期間中だけ貸したいというには方には、定期借家契約がお勧めです。
定期借家契約は期間の満了とともに賃貸借契約が終了する契約で、退去してもらう際に貸主の正当事由(立ち退き料も含む)は必要ありません。
ただ、賃貸借契約期間中は借主の権利が保護されますので、その期間中に戻ってきた場合は他に部屋を借りるなどしなければなりませんが、契約期間満了後はほぼ確実に自分で住むことができます。
家賃の集金管理や借主からのクレーム・設備故障に対応するため賃貸管理会社に依頼する
賃貸中期間中は、家賃がきちんと支払われているかを確認しなければなりませんし、滞納があった場合の督促、設備が故障した時の修理対応、クレーム対応等、仕事をしながら遠隔地で対応するには難しい事態も発生します。
専門的な知識や、対応の経験がないと、借主の不満や問題も大きくなってしまうことがありますので、賃貸管理会社に依頼することをお勧めします。
管理業務委託料は、月額賃料の5%~7%程です。
管理会社は、入居中の管理業務だけでなく、入居者募集や更新(定期借家契約は再契約)、退去時の敷金精算や原状回復まで行ってくれますので、募集時から相談するのが良いでしょう。
転勤期間中の住宅ローン控除はどうなるの?
住宅ローン控除の適用要件は、取得または増改築等をした日から6ヶ月以内に自己の居住の用に供し、かつ、その年の12月31日まで引き続きその者の居住の用に供していることです。ですから、年の途中で転勤すると、その年の住宅ローン控除の適用を受けることはできません。
転勤から戻り、再び自分で住む場合には、戻ってきた年から、住宅ローン控除の残存期間について適用を受けることができますが、自分で住むまでに賃貸していた場合には、適用は翌年からになります。
※単身赴任の場合は、配偶者や扶養親族など生計を一にする親族が引き続き居住し単身赴任解消後に、そこに同居すると認められる場合には、住宅ローン控除の適用を受けることができます。
※但し、平成28年3月31日以前に取得等をした住宅は、単身赴任先が国内の方に限られます。
金融機関や税務署への届け出
「空き家にしておく」場合も「その期間中は他人に貸す」場合も、それまで住宅ローン控除の適用を受けていた場合には、自宅の用に供しなくなる日までに、建物所在地の管轄税務署で手続きを行う必要があります。
手続きに関しては、管轄の税務署にお問い合わせください。
金融機関には、住所変更届け出と、転勤により自己の居住の用に供さなくなった旨を届け出ます。住宅ローンは、自己の居住の用に供する土地や建物に対するものですので、自己の居住の用に供さなくなった場合には、金利優遇等の適用を受けられなくなることもありますが、転勤など、やむをえない理由であれば、そのまま適用してくれることも多いようです。いずれにしても、怠らずに届け出ましょう。
海外転勤の場合の注意点
海外への転勤については、国内での転勤と比べて、納税手続きに関する部分が大きく異なります。
居住者か非居住者かどうかで分かれる手続き
海外赴任期間が1 年以上の予定で、海外で1年以上生活すると見込まれる場合は、非居住者に該当します。
非居住者は、納税管理人を定めて税務署に届け出なけばなりません。納税管理人とは本人に代わって確定申告の提出や納税等の手続きを行う人で、通常は親族に依頼します。
海外赴任中に得た賃料(不動産所得)の納税について
海外赴任が1年以上となり非居住者に該当した場合は、借主は支払う家賃の20.42%相当額を源泉徴収して翌月10日までに税務署に支払う義務があります。
納税義務者は借主です。
一般的な、家賃支払い期限を前月末までに支払う前払いの契約の場合、借主は月末までに家賃の79.58%相当額を貸主に支払い、翌月10日までに20.42%相当額を税務署に支払うことになります。
ただ、こちらは借主が法人、もしくは個人でも事務所契約の場合に適用されますので、借主が個人で自己居住・親族居住の用に供する場合は、源泉徴収の必要はありません。
借主が法人契約を希望している場合では、内覧前に貸主が非居住者かどうか確認してくることもあります。
もし海外赴任中に、国内の不動産を売却することになったら
非居住者に該当する方が自宅を売却した場合、買主は売買代金の10.21%相当額を源泉徴収して売買代金を支払った翌月10日までに税務署に支払う義務があります。
買主が個人で自己居住・親族居住の用に供する場合、且つ売買代金が1億円以下は、源泉徴収の必要はありません。